菅政権の重点政策
「我が国のデジタル化を進めるためには、まずは国・地方の行政がデジタル化を実現し、あらゆる手続きが役所に行かなくても実現できる、必要な給付が迅速に行われる、こういった社会を早急に実現する必要があると思います。」 引用:令和2年9月25日 マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ
菅総理は昨日総理大臣官邸で開かれた「第3回マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」に出席し、上記のように述べ、行政のデジタル化を加速させることを強く強調しました。私たちオール・ニッポン・レノベーションでは少子高齢化や人口減少に悩む過疎地域に拠点をおきスタッフも移住しながら各地域のスタッフと東京・横浜のスタッフが連携し、オープンデータ活用やIT化、ICTの導入、オンライン授業等の支援をまさに地方の現場で行ってきました。現在も多くの自治体で支援をしているなか、地方自治体の担当者が抑えておきたい情報を整理しました。政策立案での参考にしていただければ幸いです。
9月16日に発足した菅政権では、安倍政権が進めてきた重点政策を基本的には継承していくことを発表しました。新型コロナウイルスの感染拡大に対応することと経済の回復に取り組むことを最重要課題である述べ、憲法改正や金融緩和や財政出動などのアベノミクス、東京オリンピックの開催等も継承していくなど、歴代の支持率からも高い内閣支持率65パーセント(9月16、17日に朝日新聞が実施した世論調査)と安定した政権運営が期待されています。
その中でも変化が期待されているのがIT/ICT分野です。菅総理は官房長官時代からデジタル・トランスフォーメーションに積極的で新型コロナウイルスの感染拡大により、国民のデジタル化へのニーズが高まり、新しい生活様式が求められている社会においてよりデジタル化政策の重要性が高まってきていることから菅総理の政策には追い風が吹いています。例えば、デジタル・ガバメントを支援し、マイナンバーやマイナンバーカード、マイナポータルの対応等で有名なITbookホールディングス<1447>などIT・ICT関連企業の株が菅銘柄として急上昇、地方銀行再編に取り組むと発言したことから、福島銀行(8562)などの地方銀行や、地方銀行との連携をすすめるSBIホールディングス(8473)の株価も値上がりました。その中でもItbookホールディングスは、行政デジタル化への思惑で上場来高値も更新、PER(会社予想)は、9月25日大引け時点で391.42倍、15倍程度が平均とされる中でまさにバブルが発生しています。それだけ市場の期待も集まっているのです。
ことば:デジタル・ガバメント。デジタル技術の徹底活用と、官民協働を軸として、全体最適を妨げる行政機関の縦割りや、国と地方、官と民という枠を超えて行政サービスを見直すことにより、行政の在り方そのものを変革していくこと(政府CIOポータル デジタル・ガバメント)=関連「デジタルファースト法」2019年5月可決。
デジタル庁の役割 現在デジタル化に関連する政策は各省庁に散らばっています。例えば、オンライン診療や過疎地域等における遠隔診療は厚生労働省が、「スーパーシティ」や5G、デジタル技術の社会実装などは内閣官房、行政のIT化やマイナンバー等については総務省、テレワークの支援や中小企業のECサイト構築支援などは経済産業省、教育現場におけるオンライン化、例えばGIGASスクール構想などは文部科学省と、各省庁に散らばるデジタル政策の司令塔を担い、横断的に取り組むとでデジタル・トランスフォーメーションを加速させることを目指しています。 地方自治体での政策を考えていく中で、地方自治体と中央官庁とのギャップ、地方自治体と民間企業のトレンドとのギャップ、そして国際社会における地方自治体の役割を整理していかなければなりません。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大がはじまる以前より、多くの書類もメールでやり取りされている時代、例えば請求書や見積書もメールでやり取りをされています。民間同士の仕事がスピーディーに進む中、世界中のビジネスと闘い国際的な立場を維持するためにも行政のスピーディーさや事業の簡略化が欠かせません。筆者も行政とのお仕事の中で、お見積書や請求書に実印を押し、原本を提出してくださいと言われ、また見積書の内容修正(事前協議外の事項)を何度も求められ、「見積書発行手数料」や「請求書発行手数料」を行政に請求したいほどでした。しかし、行政手続きのオンライン化等は法律により進めることが決まっており、国と地方政府とのギャップがみられています。マイナンバーにおいては、コンビニ交付サービスが利用できる自治体は、全国約1700自治体中、751市区町村(2020年9月26日現在)。今、住んでいる地域ではコンビニ交付サービスが使えても隣の自治体や引越し先の自治体では利用できないなど、自治体間でも未だ格差が存在しています。これらについても全自治体での実施を目指しており、住民のニーズを踏まえながら優先順位をつけマイナンバーを活用した政策も準備していかなければなりません。 印鑑文化の変化も地方自治体に波及することでしょう。河野太郎氏が行政改革担当大臣に任命され、すぐに話題になった「印鑑の原則廃止」。現在1万種類以上の印鑑による押印が必要な手続きが行政にはあるといわれ、それらの効率化によりペーパーレスも期待されています。河野大臣は月内に約1万件あるといわれる行政手続きをどうしても押印が必要な手続きなのかどうか、必要なものについて各省庁に回答を求めており、回答がなかったものについては10月早々、押印枠がある書類についても枠を無視して運用してもいいという方針を発表しています。これらの波が地方自治体に来ることは必至で、地方自治体独自の申請書等については多少の猶予があっても、国や都道府県が関係する交付金関連事業等は印鑑の廃止やデジタル化など速やかな対応が求められると予想されています。人口が少ない自治体では行政職員の人数も少なく、短い期間での政策立案→実行は不可能に近く、これらのデジタル化については、今のうちに横断的なワーキングチームを立ち上げ準備をすることでスムーズな政策実行が期待されます。 菅政権・政府のデジタル関連政策や方向性
既に様々な政策の実施が発表されています。また安倍政権の時に決まっていたデジタル関連政策もいよいよ実装される時を迎えました。主要な政策を下記にまとめましたので、各自治体のスケジュール立案にご活用ください。
地域課題解決型ローカル5G等の実現 に向けた開発実証 2020年度~
マイナポイントキャッシュレス決済による付与対象期間 2021年3月31日まで
デジタル庁の基本方針を定める 2020年末まで
デジタル庁設置のための関連法案提出 年明けの通常国会
東京から地方に移住しテレワークする者に100万円の支給 2021年度から
東京から地方に移住しIT関連事業の起業に300万円の支給 2021年度から
地方自治体が主体となり行うテレワーク整備支援に交付金 2021年度から
サイバーセキュリティ人材の育成 2021年度から
自治体デジタル化基盤整備 2021年度予算を現在の5倍39億に
マイナンバーカードの全国民への普及 2022年度末
5G 5年以内に全国の約98%のメッシュで基地局展開 2024年まで
自治体ごとに異なる業務システムの統一 2025年度末まで (住民記録、地方税、福祉など自治体の主要業務を処理するための情報システム)
ビヨンド5G 2030年までの下記目標達成 (1万倍の通信トラフィック・1,000万台/km2の同時接続・超低コストIoTセンサー・20年以上のバッテリー持続・最高伝送速度100Gbps以上・現在の10倍以上・超高精度なビームフォーミング・通信遮断時間率10-6・同期ずれは200ナノ秒以下・遅延は0.3 ミリ秒以下)
年齢・性別・障害の有無・国籍・所得等に関わりなく、誰もが多様な価値観やライフスタイルを持ちつつ、豊かな人生を享受できる「インクルーシブ」の社会(2030年代に実現したい未来の姿「I:インクルーシブ」)
地域資源を集約・活用したコンパクト化と遠隔利用が可能なネットワーク化により、人口減でも繋がったコミュニティを維持し、新たな絆を創る「コネクティッド」の社会(2030年代に実現したい未来の姿「C:コネクティッド」 )
設計の変更を前提とした柔軟・即応のアプローチにより、技術革新や市場環境の変化に順応して発展する「トランスフォーム」の社会(2030年代に実現したい未来の姿「T:トランスフォーム」)
第2次補正予算でできること
「今のうちに地域のニーズ把握と、先進精鋭の民間企業への相談を。」
新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(第1次補正予算)が、感染拡大の防止や感染拡大による地域経済や住民生活の支援や、医療体制の充実など、緊急支援的意味合いがあったものにたいして新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(第2次補正予算)は雇用を維持しながら新しい生活様式への対応や、事業継続を後押しするなど、3密対策からスーパーシティーの整備、オンライン教育・テレワーク支援や産品開発、新しい観光様式の整備など、withコロナ/afterコロナ社会において、未来への投資の意味合いを持ちます。私たち、オール・ニッポン・レノベーションも、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用し、各地域で取り組む際の専門家として、スーパーシティーやリビングシフト、ハートフル等の分野で登録、すでに様々な自治体と連携がスタートしています。その中で行政IT化も推奨されており、先行事例では宝塚市と日本電気株式会社による窓口滞留時間削減の実証実験が紹介されています。臨時交付金を活用した事例は個別具体的に掲載されており、IT/ICT対応関連も下記のような例が示されています。いずれは訪れるデジタル社会に、どれだけ早く対応できるようになるかが各自治体の課題です。今のうちに始めることができる政策は行っていきましょう。準備段階のものでも早めにプロフェッショナルな企業、専門家に相談することでスタートをスムーズに。
新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(第2次補正予算)にて活用事例集(内閣府地方創生推進事務局)に掲載されているデジタル関連政策は下記のとおりです。
4. 自宅で医療・フレイル対策 推進環境整備事業
5. 離島・へき地等診療応援事業
9. デジタル技術による地域の医療機関等 機器整備支援事業
10. 遠隔診療・遠隔リハビリテーション等 支援事業
14. 障がい福祉分野のロボット技術等 導入支援事業
27. ふるさとを遠くで見守る応援事業
28. 図書館パワーアップ事業
29. 駅乗客数などの解析、可視化事業
31. デジタル認証システム導入事業
32. 市民参加型社会システム維持プラン 公募・実証事業
33. 非デジタル対応情報提供事業
40. 能、映像、ライブ、プロスポーツイベント、 動物園等の無観客配信支援事業
41. 無観客配信を支えるシステム 構築支援事業
43. 宿泊業生産性・おもてなし向上支援事業
53. 外食産業等テイクアウト・配送事業 支援事業
56. 新規市場開拓支援事業
57. 生産性向上へ取り組む 事業者への支援事業
59. 地方での生産拠点等整備事業
66. リモート関係人口創出・拡大事業
67. 地域の仮想通貨等導入促進事業
69. 地域の魅力の磨き上げ事業
71. 観光/シティプロモーション活動事業
73. 映像産業を軸とした観光・産業振興と 地域ブランディング事業
75. 在宅勤務導入支援事業
76. ワーケーション等支援事業
77. サテライトオフィスの開設等支援事業
78. テレワーカー向けサービス環境整備事業
79. 在宅勤務サービス支援事業
80. 塾や習い事のリモート化支援事業
82. 顔の見える関係やEC化支援事業
83. スーパーシティ先行実施事業
90. マイナポイント活用促進 プレミアムポイント付与事業
95. 遠隔手話サービス等の支援事業
100. オンラインカウンセリング支援事業
103. 遠隔・オンライン学習の環境整備、 GIGAスクール構想への支援事業
いずれも首相官邸内閣府地方創生推進事務局事例集から詳細をご確認いただけます。どんな施策も、ひとつだけでは成り立ちません。例えば、少子高齢化と過疎に悩む地域において生産人口・若者の移住者を増やしていきたい場合に「69. 地域の魅力の磨き上げ事業」
「71. 観光/シティプロモーション活動事業」といった地域の魅力を再創造しPRすることは欠かせません。しかし、移住していただきたいターゲットの方々がテレワーク等をされる方であれば「77. サテライトオフィスの開設等支援事業」 「78. テレワーカー向けサービス環境整備事業」は欠かせず、起業創業の支援や既存の産業を支援するにはIT・ICT技術を活用した「56. 新規市場開拓支援事業」と「57. 生産性向上へ取り組む 事業者への支援事業」をも同時に取り組んでいく必要があります。ビジネスにおいてもマーケティング・ミックス、いわゆる複合的な総合的な施策を行うことで結果がでることが大原則とされているなかで行政施策においての複合的な施策の実現は「デジタル庁」発足の波とともに地方自治体内部においても横断的に取り組んでいきたいものです。また、活用事例の多くがデジタル技術がなくては成り立たないものですが、「33. 非デジタル対応情報提供事業」の用にデジタルでカバーできないところへの施策も必要です。この機会にデジタル化すべき事業とそうではないものの整理もしてみてはいかがでしょうか。
少子高齢化や人口減少に悩む地域では、東京から全国への移住がこれまでよりもトレンドとなっている今、臨時交付金の活用はスピード性とプロフェッショナル性が欠かせません。東京から電車や車で80分圏内の海や山に囲まれた自然豊かにも関わらず、都心へのアクセスが便利な市町村では早くも2拠点生活の支援やテレワークの支援、サテライトオフィスの誘致や拠点整備など早くも「誘致合戦」がスタート、政策立案では先進先鋭の企業へのヒアリングが欠かせません。ICTやIoTなど新しい技術に明るく、また様々な企業とのネットワークを持ち、事業実施時にサポートを期待できる企業や、企業誘致にはPR力のある企業がおすすめです。そうした企業は異業種等が集まった民間企業主体の勉強会やサミットを開催しています。無料で参加できるオンラインイベントも多いので自治体の担当者の皆さんもぜひおすすめです。当社では、SDGs Innovation Hub・国際ハッカソンを共創するセピックCePicや「Art」「Creative」「Technology」Innovation Theater ACT1に参画しています。
大事なことは住民のために「デジタル化するものしないものを整理しよう」 「行政だから」「昔からやってきたから」を理由に変革しないことを選ぶのではなく、持続可能な地域を実現するため必要なリソースや基盤を整備すること、住民主体の行政サービスを考えることが大切です。多少の初期コストが時間もお金もかかってくることでしょう。その時に、コストを不安視するがために中途半端に政策を進めると、デジタル化とデジタル化しなかった領域との管理が必要になり、中途半端さが故に、今まで以上に業務が増えてしまいます。適切な業務効率化は自治体職員の負担も軽減する一方、適切な業務効率化まで総合的に取り組まなければならないということを組織の中で共通認識を持たなければいけません。また積極的に住民から要望を上げていただく環境づくりも必要です。そしてなにより、政策立案には、対象となる地域にいおいて、時を過ごす人、1人1人が、地域を好きになり、好きな地域がどうやったらデジタル技術で良くなるのかを考えることが欠かせません。デジタル技術の進歩とともに、変わるべきものと、変わらなくてもよいものとがあるはずです。変わらなくてもよいものが、地域の魅力であることもしばしば。今一度、地域に思いを馳せてみてください。
新しい時代、民間企業ではリモートやデジタル化が当たり前の社会。行政も持続可能な社会の発展のため、社会の要請に柔軟に対応していかなければなりません。例えば中央省庁に関連する有識者会議もリモート参加ができるようになっていますが、地方部の自治体では民間の有識者や地縁団体の関係者が揃う場面においても、行政の会議室で顔を合わせることが前提とされているものが未だに多くの残っています。「たかが1時間の会議」と思っていても、ご参加いただく方々には往復の移動時間や、場所を限定されることによる前後のスケジュール調整と、想像以上に負担をかけています。こうした会議に参加する方がへの報酬や謝礼は薄謝であるか交通費も支給されないことは珍しくありません。しかし、オンラインが苦手な方もいらっしゃいます。限られた時間にお力をお借りいただくという上で、地縁団体の関係者や有識者会議の委員等の負担も軽くなるよう、オンラインとオフラインの併用など柔軟な運営を行うことを心がけいきたいものです。 官僚の方はもちろん、地方自治体の担当職員も、関連する企業やNPO、外郭団体の方々も交付金ひとつひとつや、法令・制度、それぞれの自治体の方向性(計画)を理解することはもちろん、政策立案および事業実施の段階においてまちづくり、防災、多文化共生など多面的な視点をもつことは欠かせません。しかし、なにより大切なことは、住民視点に立ち、地域のチカラを引き出すことです。地域全体のデジタルリテラシーを高めなくてはいけません。限られた資源を有効活用するため、行政が行うこと、住民主体で行うこととを整理し、特にまちづくり分野におけるデジタルトランスフォーメーションでは住民主体での事業実施ができる政策実現を目指していきましょう。 (後編では具体的な政策立案フローや、箇条書きでのチェック項目等をご紹介予定です。)
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